2021年度からの65歳を上限とする定年制の廃止を発表したYKKグループ。そのなかで、住宅やビル用建材の設計、製造、施工および販売を担うYKK AP株式会社では、ミドル層採用を積極的に進め、優秀層の取り込みに注力しています。どのような戦略のもと、ミドル層の採用活動を行っているのか。人材開発室の畑中温子氏に話を聞きました。
人事部 人材開発室長/畑中 温子 氏 |
どの年代にもチャンスが生まれる会社を目指して
──はじめに、YKK APの事業概要について教えてください。
YKK APは、YKKグループ内において建材事業を担っています。アルミの加工技術を生かしたサッシメーカーとして事業を始め、今では、開口部の専門メーカーとして、窓やドア、カーテンウオールやエクステリア商品等を中心に商品を展開。当社はYKK株式会社の子会社という位置づけではありますが、グループ内で中核を担い、売り上げや国内の従業員数においてもYKK APのほうが大きくなっています。ものづくりへのこだわりから一貫生産体制をとっており、材料開発から技術開発、製造機械製作に至るまで、自社内で行っているのが当社の特徴です。
──YKKグループでは、2021年度から定年制を廃止されていますが、廃止を決めた背景についてお聞かせください。
少子高齢化により、日本の労働力人口が減少していくことは明らかです。そのなかで会社が成長し続けるためには、年齢によらず社員がイキイキと活躍し続ける環境づくりが欠かせません。そうした背景により、2013年度の公的年金の支給開始年齢引き上げに合わせ段階的に定年を延長し、社員一人一人が望むキャリアと、会社が求める役割を明確にしてきました。年齢ではなく実力で「公正」に人材を配置し、活力ある組織をつくりたい。グループ全体の発展のためにも、年齢で諦めることなく、すべての社員にキャリア構築の機会を届けたい。そのような思いから、2021年度の定年廃止へ踏み切りました。
──定年廃止は社内にとって大きなムーブメントだったのでは。社員の方の反響はいかがでしたか。
時間をかけて段階的に定年を上げてきたので、「年齢や性別、学歴や国籍に関係なく、公正に活躍できる会社を目指す」というグループ方針は徐々に広まっていたと思います。しかし、「会社の新陳代謝が図られないのでは」「自分の席が取られてしまう」という懸念があるので、不安を取り除くための評価基準・採用基準の設計にも力を入れました。具体的には、「定年は廃止するけれど、主要ポジションは若手を登用し、平均年齢を下げる」という取り組みを進めています。優秀な人材にきちんと椅子を渡し、どの年代にもチャンスが生まれるような組織づくりを強化しています。
「本気の採用」に取り組む部門が、「ビズリーチ」を活用
──積極的な若手の中途採用に加えて、ミドル層の採用にも力を入れていると伺っていますが、その背景について教えてください。
事業領域の拡大に向け、経験豊富なミドル層採用のニーズが高まっています。YKKグループが定年廃止を打ち出したことで、長く働けるという点に魅力を感じて転職を検討するミドル層の方も増えています。初めて転職される方、現職で役職定年が見えてきたという方も多く、自分のキャリアや可能性を見つめ直すなかで当社を選んでくれるケースもあります。
──実際のミドル層の採用はどのように進めてきましたか。現場との連携など、工夫されてきた点を教えてください。
一貫生産体制を強みとして持っているため、自社内に、商品開発・技術開発・機械設計・営業・DX(デジタルトランスフォーメーション)などさまざまな部門を抱えています。各ポジションからキャリア採用ニーズが増えてきたことで、2018年ごろからビズリーチを活用。現場の部門責任者が職務経歴書を見てスクリーニングできるため、「他業界だけど、この方のこのスキルは生かせる」など、人事では見極めの難しいところも判断できるようになりました。
部門採用は、ビズリーチの導入とともにスタートしました。職務経歴書のチェックとスクリーニング、スカウトの送信、面談は部門が行い、面接は人事が同席。よりリアルな現場目線で仕事や会社について伝えてもらいます。
導入以前は「採用は人事がやるもの」という考えが強く、部門採用がスムーズに広がる土壌はあまり整っていませんでした。そこで、「ビズリーチは自分たちからアプローチするもの。これまでの採用とは違います」という社内発信を続け、現場に負荷がかかることも伝えてきました。そのうえで、今は、ビズリーチを活用するかしないかを現場に判断してもらっています。
──「現場の本気度を問う」ということですね。具体的にどのようなアクションをしていますか。
どの部署も「採用はしたいけれど、通常業務が忙しい」のは同じです。そのうえで、採用への優先度をどれだけ持てるのかを確認し、「候補者とのコミュニケーションを丁寧かつスピーディーに行うことが非常に重要」であることや、「候補者にしっかり魅力を伝えようという強い意志がなければ、逆に失礼になってしまう」ことを伝えてきました。
また、「自ら候補者にアプローチできるビズリーチだからこそ選考通過率も良く、相互理解が高い状態で選考に進める」「選考のスピードも速められる」などとメリットを伝え、部門に「やってみよう」と思ってもらえるようなコミュニケーションも心がけています。
──スカウト作成時や面談・面接時、自社の魅力を候補者に伝える際に工夫していたことはありますか。
ミドル層の採用では、マネジメントポジションやスペシャリスト・専門職を募集していましたので、部門長クラスの方に直接スカウトを送ってもらっていました。その際、当社のいいところばかり伝えるのではなく、スカウトや最初の面談の段階から課題感を共有し、「この課題を一緒に解決する仲間を探している」というメッセージを発信。課題感を理解し、より事業の上流について考えられるマインドの方に選考に進んでいただくことを意識しました。
定年制度廃止について候補者からご質問いただくことも増えています。ただ、廃止を決めてから日が浅いので、まだまだ変革途中であることを伝え、「一緒につくっていこう」という姿勢に納得していただける方を採用しています。定年はなくなりますが、いつまでも一定の報酬が保障されるということではありません。あくまでも実力を正当に評価する仕組みであるため、給与のアップダウンがある点も丁寧に説明しています。
実績豊富なミドル層が、社内に新たな発見と気づきを与えてくれる
──実際の採用活動の成果について教えてください。ミドル層の方を採用したことによる社内の変化についても教えてください。
建設業界やメーカーの出身者をはじめ、40~50代の実績豊富な人材を広く採用しています。マネジメントポジションでは採用予定が1名だったところを2名採用できたケースもありました。定年廃止により「まだまだキャリアが積める、チャレンジできる」と思っていただき、現状を打破していくようなマインドの方に出会えていると感じています。
受け入れる側の私たちとしても「あの会社の役職経験者が来てくれるんだ」という驚きがあったり、「入社した人の職務経歴を知り、もっと自分のキャリアを磨きたい」という社員の刺激につながったりと、新しい風が入ることで組織の活性化につながっています。
──採用活動を通じて、ビズリーチでミドル層を採用するメリットをどう感じていますか。
ビズリーチを活用して感じるのは「マッチングのしやすさ」です。データベースの段階である程度詳しい経歴が分かり、人物のイメージが持てた状態でアプローチできるからです。
また、ビズリーチに自ら登録しているミドル層は、キャリア形成に前向きで、常にアンテナを高く張って、情報収集をされている方が多い印象です。経歴も多岐にわたり、選考段階で日本の製造業に対してのアイデアやご意見をいただくこともあります。入社後に組織内に刺激をもたらしてくれますし、たとえご縁につながらなくても、選考自体が有意義な時間になっていると感じています。
──今後のミドル層採用の展望についてお聞かせください。
ミドル層採用では、優秀な方には役職待遇でご入社いただきますが、「10年後もそのスキルを持ち続けられるか」をしっかり見させていただいています。定年廃止により事業領域も活躍できるフィールドも広がっていますが、だから安泰ということでは決してありません。若年層も含め、誰にでも公平にチャンスがある会社をつくっていきたいと考えています。
──最後に、ミドル層の採用を推進することのメリットや、ミドル層採用を進めたいと考える企業・採用担当者へのメッセージをお願いします。
企業として新たな事業分野に挑戦し、成長していくことを考えると、若い活力とベテランの経験・スキルの両方が必要だと感じています。採用というと若年層に意識が向きがちですが、採用市場には、非常に柔軟性があり、力のある熟練したベテランの方がたくさんいらっしゃいます。ミドル層採用は、そんな意欲的な候補者との出会いにつながっています。
年齢を理由に諦めることなく、将来のキャリア形成を前向きに考え「まだまだ活躍したい」と思える、そんな会社をつくっていきたいと考えています。