「ブランド体験を最適化する」というミッションを掲げ、テクノロジーを活用したEC/CRMの運用やブランド毀損を防ぐ転売模倣品対策サービスを手掛ける、しるし株式会社。2021年に設立した同社では、代表の長井秀興氏が採用活動の全プロセスにコミットし、採用を進めています。長井氏が考える採用のあり方や、マーケティング経験者だからこそ意識された取り組みなどについてお話を伺いました。
代表取締役/長井 秀興 氏 東京大学大学院卒業後、2016年に新卒でP&Gジャパン合同会社(以下、P&G)のマーケティング部に入社。ファブリーズのブランドマネジメント、ブランドマーケティングを経験。その後、HR系ベンチャー企業での事業責任者やヘアケアのブランドマネージャーを経て、独立。ブランドマネージャーの経験から、下田陽志郎氏(現取締役)とともに、しるし株式会社を起業。 |
採用の「型」を構築し、しるしの競争優位性を向上させる
──はじめに、しるしの事業概要についてお教えください。
当社は2021年3月に創業し、テクノロジーを活用したEC/CRM運用サービスのほか、転売や模倣品などのブランド毀損対策、ECマーケットデータ・レビューデータを活用した新商品開発コンサルティングを展開しています。
私のファーストキャリアはP&Gのマーケティング職で、ファブリーズのブランドマネジメント(PL管理やマーケティングの企画実行)を担当していました。ある時ECマーケットに目を向けてみたところ、ECに特化したブランドや企業に自社の商品が押し負け、転売品や模倣品が出るなど、ブランドが提供する体験を管理できていないという問題に気づきました。ECにおけるブランド毀損を防ぎながら、どのようにECの売上を伸ばしていくか。このような課題を抱えている企業・ブランドが多いと考え、同じ想いを持った下田と共にしるしを創業しました。
──しるしの現在の採用状況、採用プロセスについて教えてください。
2022年度は年間20名採用を目標に、「経験」「スキル」「主体性」のある方を求めています。しるしは創業から1年半が経ち、サービスをデリバリーするための部署間の連携の仕組みや、スケールするための組織設計のフェーズに入っています。ゼロからの仕組みづくりなので、会社の成長に合わせてやるべきことを考えて実行できる「主体性」が大事だと考えています。
2022年2月にビズリーチを導入し、採用経路はスカウト、人材紹介、リファーラルの大きく3つです。候補者との期待値調整を大事にし、「当社からは、こんな機会を提供できます。一度お話しする機会を持たせてください」と、まずはこちらから情報提供を行うスタンスでスカウトを送り、面談で初期接点を持つようにしています。
スカウト送信作業や返信対応、面談日程調整などはRPO(Recruitment Process Outsourcing:採用業務のアウトソーシング)にお願いしています。ただ、スカウトの文面検討・作成から面談、一次面接、オファー面談は全て私が担当してきました。
──代表である長井さん自身が主体となって採用活動を推進している理由や、採用への思いをお聞かせください。
会社がどのフェーズにあっても、採用はもっとも重要な企業活動だと思っています。仲間づくり、チームづくりを代表自らが指揮を執るのは、スタートアップならなおさら当然のことでしょう。
また、当社は現在社員十数名前後のフェーズですが、即戦力人材を一人採用できるかどうかで事業の成長スピードはまったく変わってきます。そうした人材の採用可能性を高めるためには、代表自ら自社の魅力を伝え、入社まで並走することが重要だと考えています。
加えて、当社はまだまだ企業認知度の低さを課題としています。候補者の方々との貴重な出会いを採用につなげるために、「代表が面談する」ことは一つの訴求ポイントになると考えています。候補者のなかには、代表の経歴や考え方を重視される方もいらっしゃいます。代表のパーソナリティーを知ってもらうことで、会社に興味を持っていただき、一緒に働きたいと思っていただけるような機会につなげたい。そんな「広告塔」のような存在となることを意識しています。
──長井さんが採用に関わることで目指している「採用のあり方」についてもお聞かせください。
採用は本来、入社後のオンボーディングまで包括したものであるべきです。母集団形成、面接プロセス、クロージング、オンボーディングまでを仕組みとして構築することで、入社者に早期に活躍いただけるようになれば、企業の競争優位性を高めることができます。
人的リソースマネジメントの観点で、オンボーディング完了までの期間を短縮し、より生産的な時間の使い方ができるようにしたい。その際、代表が採用にコミットすることで全体の動きを把握し、採用プロセスの早期の構築につなげていきたいのです。採用に関して私が実行することで型をつくり、いずれは人事に任せられるような仕組みづくりを目指しています。
「どのようなペルソナに何を訴求するのか」。マーケティング視点で採用活動を設計
──ダイレクトリクルーティングに関する実際の取り組みについてお聞かせください。
採用において重要なのは、「どのような経験を積んだ方が募集ポジションにマッチするか」を理解することだと思います。
例えば、当社の場合、EC運用経験者が即戦力になることは分かりますが、未経験者で即戦力になりうる方はどのような経験を積んでいるかは、実際に会ってみないとなかなか分かりません。お会いしたうえで、「当社で活躍するイメージが湧くか」「同じ経験を持つ方をターゲットとすることで採用したい方に出会えそうなのか」を判断しています。そのため、あらゆる職種でターゲット変更を行い、「採用したい方かつ採用できそうな方」を見定める試行錯誤を繰り返しています。
営業なら、広告代理店での営業経験者がピンポイント層として該当しますが、実際にスカウトを送っても返信はなかなか来ませんでした。その方たちにはSaaS企業や外資IT企業などからもたくさんのスカウトが来ており、競争率の高いターゲットとなっていると考えられるからです。
そこで、過去の広告代理店での営業業務経験は要件から外し、異業種営業経験者も積極的に見たうえで、「キャッチアップの速さ」「数値情報への強さ」「思考力の高さ」「ポジションとの親和性」などの定性的な要件を検索条件に当てはめていきました。「理系で、大学を卒業しており、営業など顧客折衝の経験がある方」へ再アプローチしたことで当社にマッチした方と会えるようになりました。
また、ビズリーチのコンサルタントと週1回のペースでミーティングを行い、ターゲットのすり合わせを行っていました。スカウト送信後の反応や、面談での感触などから「このターゲット層は返信が来なくて難しい」「こっちのターゲット層は、面談後のステップに進みにくい」などと仮説が見えてきます。その都度、「次はどういう層に送るべきか」を一緒にディスカッションしていましたね。
──スカウトの作成において工夫したことはありましたか。
スカウト対象者に、何が価値として訴求できるかを洗い出し、10パターン以上のスカウト文を作成しました。
私がP&Gのマーケター出身であること、創業以来黒字経営を続けていること、ECマーケットはビジネスチャンスの大きな領域であること、当社の競合優位性などを言語化し、訴求できそうなことを一通りスカウトに入れて届けていきました。
実際に面談で会えた方には、「どのような点に興味を持ってご返信いただけたのか」を聞き、各ターゲット層に刺さる訴求内容を整理。今では、採用したいペルソナに対してどのような訴求をすべきか、マーケティングの考えに基づいて動けるようになっています。
──候補者に会える確度が高まるなか、選考やオファー面談ではどのようなことを意識していましたか。
過去の職務経験を事実ベースで聞いたうえで、その事実をつくる際に考えたこと、意識したこと、取り組んだことを伺いました。
また、キャリアに対する明確な意志を持っているかをしっかり確認するようにしています。「将来こうなりたい」「スキル・経験を積みたい」「こんな仕事をしたい」という意志がなければ、今後事業をスケールする際のさまざまな環境変化に順応できず、事業成長を引っ張っていくこともできないでしょう。
チャレンジングな環境で社員として楽しく熱中して働いてもらうには、本人のなりたい姿としるしの将来が一致している状態が欠かせません。オファー面談では、しるしの将来性や計画達成のための戦略、達成したときの事業や組織規模を説明し、「だから、あなたにこのような機会を提供させていただける」「あなたのキャリアへの思いを、このように叶えられる」とお伝えしています。
しるしと入社者、双方の幸せをつくることで、働いていて満足度の高い、生産性の高い職場環境をつくりたいと考えています。
訴求内容の再考を重ね、「1分の1」の理想の採用を目指したい
──ビズリーチでの採用実績について教えてください。
利用開始から4カ月ほどで、2名の若手の即戦力人材の方に入社していただきました。
一人は将来の幹部候補で、総合商社で経験を積んだメンバーです。経営者になりたいと思い新卒で商社に入ったという経緯が、私が経営者になりたくてP&Gを選んだことと重なり、「しるしで経営者としての実務経験が積める」ことを訴求しました。大手企業では、経営志向があっても実際にチャレンジできる機会はなかなかやってきません。彼は「小さいベンチャーで経験を積みたい」と、私自身がかつて抱いた思いを持っているのではないかと考えました。実際に、少人数の事業規模で急速に成長している会社として当社を選んでくれ、訴求内容がマッチしたのだと思っています。
もう一人は、若手即戦力層として採用した、製品の品質管理コンサルティング会社に在籍していた営業企画経験者です。大学院で爬虫類の研究に没頭していたというユニークな経歴で、「研究内容が社会にどう役立つのか」を面接で聞いたところ、研究の意義や目的を明確に持っていました。目的を設定する力や言語化能力に感銘を受け、エンドユーザーの体験から逆算してブランド体験をしっかり設計する素養があると考え、採用を決めました。
──最後に長井さんが思う、代表自らが採用活動にコミットするメリットや、若手の即戦力人材を採用するにあたり取り組むべきことについてお聞かせください。
代表自らが採用活動を行うことのメリットは、「自ら獲得した一次情報を元に良し悪しの判断ができ、採用プロセス早期に構築できること」でしょう。入社後に活躍できるようにオンボーディングを行うことまでが採用活動なので、全体最適を考えた意思決定を素早くできる点は重要だと思います。
採用では、自社が思っている訴求ポイントと、採用候補者にとっての魅力的な訴求ポイントが違うことが多くあります。代表がその違いを肌感覚として持っていると、採用PRにおいて、何をどのメディアで発信するかも考えやすくなります。
若手即戦力人材の採用については、自社で働くメリットを言語化することが必要です。スカウトには「会社の紹介」が並んでいるのではなく、「会社の魅力」が書かれていなければ、一緒に働きたい方にしっかりと情報を届けることはできません。
当社では「急成長できる環境を望んでいる方にとっては魅力的」と伝えていますが、会社の良さはそれぞれ。しるしでも、どのようなペルソナにどのような訴求内容を届けるべきか、さらに検証を重ね、スカウトした一人を採用する「1分の1」の理想に近づけていきたいと思っています。