2021年8月より、部門主体のダイレクトリクルーティングへと大きくかじを切ったテュフズードジャパン株式会社。高い専門性を必要とする認証サービス事業を展開するからこそ、業務理解の深い部門自らが動くことで採用力を強化してきました。部門と人事がどう連携して、採用のあり方を変えていったのか。人事部人事スペシャリストの三石瑠璃子氏とMHS事業部薬事認証部部長の横山有希氏にお話を伺いました。
人事部 人事スペシャリスト/三石 瑠璃子 氏(左)
MHS事業部 薬事認証部 部長/横山 有希 氏(右) |
専門人材を部門自ら採りにいく、体制づくりを進めた
──はじめに、テュフズードジャパンの事業概要についてお教えください。
三石:ドイツに本社を置くテュフズードは創業150年、世界中に約2万5,000人の従業員を抱え、これまで約57万4,000件の認証を発行してきました。テュフズードジャパンは、日本市場での品質・安全試験と認証への需要拡大に応えるため、1993年に設立されました。
電気・電子機器、ヘルスケア・医療機器、産業機器、IT・AV機器、5G関連機器、食品、自動車、鉄道、キャッシュレス決済、エネルギー・プラント機器、化学物質・プロセス、化粧品と幅広い分野に対し、各種試験・認証・監査・マネジメントシステム認証・トレーニングサービスを提供しています。こうしたサービスを通して、お客様の国内およびグローバル市場での競争力強化をサポートし、社会により安全でより持続性のある未来を創造できるような付加価値の提供を目指しています。
──採用状況についてお聞かせください。どのような採用ポジションがあり、どのような手法で採用活動を行っているのでしょうか。
三石:年間20~30人の採用を進めており、職種は品質マネジメントシステム審査員や製品品証・試験エンジニアなど、専門性の高い人材が多いです。当社の提供するサービスの社会に与える影響の大きさや、技術的な専門性を磨けることに魅力を感じたメンバーが入社しています。採用チャネルは、ビズリーチやSNSを活用したダイレクトリクルーティングのほか、人材紹介会社やヘッドハンターからの紹介もあります。
──2020年2月~8月までビズリーチを利用し、1年後の2021年8月より再度導入をしたとのことですが、その理由や背景についてお聞かせください。
三石:ビズリーチ導入を決めたのは、紹介や応募を待つ「受け身の採用」から、自らで候補者にアプローチする「攻めの採用」に転換したかったからです。
ビズリーチ導入以前は人材紹介会社を中心に採用活動を進めており、自分たちで候補者に直接動機づけできないもどかしさがありました。当社は認証サービス提供というニッチな領域を扱っています。採用ターゲットとなる専門人材がそもそも転職市場に少ないうえ、業務内容を理解してもらうのに時間がかかります。加えて、第三者を介することで情報が伝わりにくくなり、紹介をいただく方とのミスマッチが生じることもありました。本人の応募意思を確認することも難しく、直接コミュニケーションがとれる手法を導入したいと考えていました。
初回のビズリーチ導入時は、新型コロナウイルス感染症の拡大時期であったことも重なり、候補者の転職マインドが積極的でなくなってしまいました。加えて、採用業務の一部を現場の部門が担っており、その負荷を軽減するために人事が多くのプロセスを対応してしまった結果、部門に対してビズリーチを活用することのメリットを体感してもらうことができませんでした。しかし、1年後採用ニーズの増加と、一方で遅々として進まない採用活動の状況を踏まえ、「もう一度、部門との協力体制を見直し、自分たちで候補者を探しにいける体制をつくろう」と動き出しました。
人事と部門、ビズリーチ三者の役割分担で連携もスムーズに
──ビズリーチ再導入に向け、どのような体制づくりを進めていきましたか。
三石:部門主体でダイレクトリクルーティングを進められるよう、部門責任者を集めて社内説明会を行いました。それまでは、人材紹介会社から紹介が入り次第、書類選考から面接まで部門に立ち会ってもらっていましたが、ビズリーチ導入後はデータベースのサーチから部門が進めることにしました。まずはその方針から、理解を求めていきました。
ビズリーチのコンサルタントにも全面的に協力してもらいました。システムの初期導入やスカウトの作り方に加えて、転職動向や他社事例をよく知る第三者のプロに話してもらうことで、部門の納得感を高めるための部門向け説明会も行いました。
──部門側の視点から、部門主体の採用活動がスタートすると聞いたときの当時の思いをお聞かせください。
横山:自分たちで候補者を探しにいけるのは、非常に喜ばしいことでした。
私が所属する薬事認証部は、医療機器の審査・認証サービスを提供しており、高い専門性が求められます。実際に、「資格を持っていても、実務経験がこれくらい必要」などといった細かい人物要件が多く、言語化が難しい状況にいました。そのため、人材紹介会社にニーズを正確に伝えられず、紹介が入ってきても書類選考にすら通らないというケースもありました。ですので、「自分でデータベースが見られたら、もっと良い人が見つけられるのでは」という思いが部門に広がっていました。
そもそも当社には、新しいシステムや技術を取り入れるなど、挑戦に前向きな風土が根強く、「やってみよう」とアクションを取る人が多くいます。部門責任者の裁量が大きく、各部門が一つの企業のように決断して動ける働き方もあって、ビズリーチの導入にも賛同の声が大きかったのだと思います。
──実際に部門主体の採用活動を行ってみて、人事と部門の連携の仕方、運用面での苦労や工夫にはどのようなものがありましたか。
三石:人事と部門の役割分担を明確にすることを意識しました。候補者のサーチ、カジュアルな面談、面接対応など選考にかかわるところはすべて部門が担当し、人事はスカウトの作成や送信、返信対応などの実務面を担当しました。
横山:スカウトは基本人事が送っていましたが、すぐにアプローチしたい人材については私たち部門から送ることもありました。選考にかかるリードタイム短縮のために、部門からコメントを入れて送信するなど、候補者によって柔軟に動きました。
──初期導入以降、ビズリーチとの連携はどう進めていましたか。アドバイス面で役立った点などはありましたか。
三石:月1回の定例ミーティングを行い、他社事例など具体的なアドバイスを多くいただきました。「候補者が採用競合とのバッティングで迷っている」と相談した際は、「不安や懸念点の払拭のために、選考中にこんなフォローアップをしてはどうでしょうか」と助言をもらい、部門責任者にも提案できました。オファー面談の実施も、ビズリーチのコンサルタントからの提案があったからです。
横山:ビズリーチの担当者とは、部門とのミーティングも3~4回行いました。スカウト作成のポイントやサーチの際の工夫などこまめなサポートがとてもありがたかったですね。
人材要件の中身を部門内でブラッシュアップ。業務理解も深まっている
──ビズリーチ導入後、どのような採用成果が出ていますか。
横山:これまでできていなかった、同業他社からの採用が実現できました。同業出身者はなかなか転職市場にはいないのですが、自分たちでデータベースを見ていたからこそ採用につなげられたと思っています。
データベースを見ていると、求める候補者の絶対数が分かってきます。「ここまで絞ると、〇人しかいない」「この要件をもっと広げてみよう」などと試行錯誤を繰り返し、知見が蓄積されていきます。
ビズリーチ導入以前や導入初期は、認証や審査にかかわる実務経験を重視し、当社がサービスを提供している顧客側のカウンターパートとなるような方を採用ターゲットにしていました。しかし、その後の採用マッチ度などを考えると、実務経験は入社後に身に付けられるものだと気づくようになりました。重要なのは、医療機器そのものへの理解があるかどうか。その観点で候補者をサーチするようになってから、対象の幅が広がり、より当社に合う人材に出会えるようになりました。
──部門内の採用への意識変化などは何かありましたか。
横山:部内では候補者の職務経歴書をメンバーにも見てもらい「この方は部門に合うと思うか」などと会話したり、面談・面接に同席してもらったりしています。職務経歴書をたくさん見られるからこそ、自分たちがどういう方を求めているのかを明確にでき、「このスキル・経験がある方なら入社後に活躍できる」などと、自分たちの仕事の理解も深まっています。
ダイレクトリクルーティングの良さは、自社の魅力を自分たちの言葉で直接伝えられることです。スカウト作成に向けては、事業内容や仕事内容について、紹介文を何度も書き直し、どう伝えれば知ってもらえるか、興味を持ってもらえるかを考え続けていました。自分たちから声をかけるのだから、自己紹介が魅力的でなくてはいけない。組織全体で、「もっと社外に発信していこう」という意識が高まっているのは、ダイレクトリクルーティングを始めたからだと思います。
──部門主体によるダイレクトリクルーティングが根付いた理由やポイントをどう捉えていますか。
三石:人事と部門、ビズリーチを含めた3者で役割分担をして、定期的にPDCAサイクルを回せるようにしたところが良かったのかなと思います。
また、採用がうまくいっていない部門やポジションについては随時ミーティングを行い、ビズリーチのコンサルタントにも協力してもらい、どこに改善点があるかを議論しました。
しかし、部門主体の採用は、責任者の温度感にどうしても部門差が出てしまいます。そこで成功事例があれば社内共有をして、「部門主体でやるからこんなメリットがある」と啓発も行うことで、少しずつ受け入れられるようになりました。
──最後に、部門主体によるダイレクトリクルーティングを推進することのメリットや、「こんな会社こそ部門による採用を進めたほうが良い」といったメッセージをいただければ幸いです。
三石:当社のようなニッチな業界や、専門スキルが求められるポジションでは、求人広告や人材紹介会社からの応募・紹介を待っているだけでは求める人材に出会うのは非常に難しいと思います。
しかし、業務を深く理解する部門自らが候補者を探すことで、これまでに出会えなかった方にアプローチができます。ファーストコンタクトから入社に至るまで、部門と候補者との関係も深まりやすく、入社後のスムーズな活躍にもつながると思っていますので、私たちと同じような課題を持つ企業の方は、ぜひ部門主体による採用に取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、当社ではエキスパートが各専門分野で活躍いただけるよう環境を整えています。テクノロジーへの情熱を持ち、未来を切り拓く最先端技術を評価して最適化する第一人者を目指したいという方と出会えるよう、今後も採用に力を入れていきたいと思います。
横山:部門主体の採用はハードルが高いと思うかもしれませんが、思いきって挑戦してみることが大事だと思います。
当社は、部門の裁量が大きく、「成果を出すために自分たちで動く」という考えが浸透しています。こうした背景もあり、「人材紹介会社が良い方を紹介してくれなかった」「人事が動いてくれない」などと他責にせず、自らで課題を乗り越えていくべきというマインドが採用成功につながったと考えています。自分たちが動けば、良い方と出会うことができ、結果事業もより大きくなる。このような成功体験の積み重ねが採用成功につながると思いますので、ぜひ挑戦していただければと思います。