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サーベイとは何か
■目次
1.組織のコンディションを知るにはセンサスが有効
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組織のコンディションを知るにはセンサスが有効
次は、組織のコンディションを知るためのサーベイについてお話しします。
こちらに関しては、「センサス」が有効だと考えています。センサスは、網羅的な調査を実施するための方法です。大規模な調査であることが多く、半年に一度、1年に一度の頻度で、変化のスピードが速くないものに対して使うのがよいと思います。組織のコンディションは短期間では変わりませんが、多角的かつ網羅的に課題を見つけるには、センサスの利用が有効です。
そして、センサスを効果的に運用するためには、パルスサーベイに比べてサイクルをよりじっくり回す必要があります。ポイントは全部で5つあり、「重要項目を決める」「回答を収集する」「集計結果を見る」「各部署にフィードバックを行う」「アクションする」が挙げられます。
センサスを効果的に運用するためのサイクル「重要項目を決める」
まず、サーベイを何に使うのかという目的を明確にしたうえで、設問設計を行う必要があります。たとえば、組織のあるべき姿を明確にするには、それを示す設問を決めたうえでサーベイを実施することが重要です。項目というのは、前編でお伝えした個人のコンディションを知るためのサーベイと同じです。それに加えて、組織のコンディションを知る際には組織課題の仮説を立て、設問を決める必要があります。
また、前回のサーベイ結果から実施したアクションの効果測定が目的の場合は、どの設問のスコアが変化したらアクションの効果があったといえるかをサーベイの重要項目としましょう。
サーベイの設問にはさまざまなものがあると思います。たとえば、ビズリーチでは70問ほど設けていますが、70問全てをフラットに見るよりは、「どの設問に特に注目するのか、どの設問を重視するのか」を決めたうえで実施、分析しています。こうすることで、よりサーベイの結果を効果的に活用できますので、重要項目を決めることは大切です。
センサスを効果的に運用するためのサイクル「回答を収集する」
センサスにおいてやはり重要なのは回答率です。回答数が少ないと正しい組織診断ができず、また、多くの従業員に答えてもらったほうが分析の精度が上がってきますので、定期的なリマインドを行っていきましょう。回答率が低い部門に関しては、部門のトップなどに回答率が低いことを報告し、回答を促すことも重要です。
センサスを効果的に運用するためのサイクル「集計結果を見る」
集計結果を見る際、各項目の平均を取るだけではなく、重要度の高い項目を見つけるようにしましょう。ビズリーチでは5段階でスコアを取っているのですが、そのなかでも重要度の高い項目は何かを探すことを重視しています。その際、eNPS(Employee Net Promoter Score)との相関に着目することで重要度の高い課題を見つけています。
センサスを効果的に運用するためのサイクル「各部署にフィードバックを行う」
サーベイの結果を基に各部署にフィードバックを行いますが、その際は注意が必要です。それは、サーベイの結果が組織の評価のように見えてしまいがち、という点です。実際、組織マネージャーにフィードバックを行うと、急にさまざまな言い訳をしてしまうということは少なくありません。ですので、サーベイの結果は評価ではなく健康診断のようなものであり、まだまだ組織としての伸びしろがあるなど、ポジティブに捉えてもらえるように伝えています。
結果のフィードバックは、組織長に主体性を持ってアクションを行ってもらう必要があるため、まずは組織長に向けて実施しています。現状を真摯に受け止めてもらい、その後配下の組織マネージャーへのフィードバックを行ってもらいます。そこで組織課題やアクションについて考えてもらいます。
最終的には従業員に結果のフィードバックを行いますが、その際には組織課題やアクションを明確にして伝えられるとよいと思います。
センサスを効果的に運用するためのサイクル「アクションする」
基本的にはアクションをしなければサーベイの意味はありません。従業員がサーベイに答えてくれない理由の多くに「サーベイからのアクションがない」というものがありますので、必ず何かしらの行動をしましょう。
その際、メンバーとの期待のズレについては注意しましょう。サーベイの結果より、従業員としては会社が「Aという取り組み」をしてくれると思っているにもかかわらず、それをしてくれないことが不満になっていることもあります。その場合には、会社として行わない理由を伝えることも、従業員の期待値調整という観点では有効なアクションだと思います。
サーベイの結果を受けて新しい施策を実施することもあるかと思いますが、その際は施策を実施するだけでなく、効果測定を行うことが重要です。そして、次回のサーベイにつなげるためにも、サーベイの結果からどのようなアクションにつなげたのか、次回のサーベイでどこを重点的に見たいかを設定するようにしましょう。
eNPS(Employee Net Promoter Score)とは何か
eNPS(Employee Net Promoter Score)とは、従業員のロイヤルティーを数値化する指標のことを指します。たとえば、「あなたは現在の職場で働くことをどの程度親しい友人や家族にすすめたいと思いますか」という設問に対して、0~10点の11段階で答えるという内容があります。そして、9以上を選んだ人たちを推奨者、7〜8を中立者、6以下を批判者と分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いたものがeNPSとなります。
日本でeNPSを取得すると数値が低い傾向があります。日本での数値が低い傾向は、日本企業で働く人々の特徴なども影響しているのではないかという話もありますが、従業員の満足度のKPI(Key Performance Indicator)としては有効な指標だと考えています。
従業員満足度調査というものがありますが、私自身はeNPSを使うことを推奨しているので、その違いと理由についてお話しします。
そもそもeNPSは、もとになったNPS(R)(Net Promoter Score)をアメリカのApple Inc.が店舗の従業員のロイヤルティーマネジメントに活用したところが始まりだといわれています。「あなたは当社のサービス・商品をどの程度他の人にすすめたいと思いますか」というNPSの質問に対して、「あなたは現在の職場で働くことをどの程度他の人にすすめたいと思いますか」という内容に変化させたものがeNPSになっています。
顧客に直接体感を聞くということ自体は非常に有効な手段であり、一般的には満足度調査という形で実施されています。その多くが5段階で回答を設定していますが、「大変満足」と答えた人のなかには、実は頭で満足している人と心で満足している人が混在しています。一方、直接批判することを避ける傾向があるため、アンケートでなかなか「不満」「大変不満」と答えづらいことも問題点です。
満足には大きく分けて2タイプあるといわれていて、一つは頭の満足です。「安い」「多機能」「便利」など、いわゆる合理的な判断で満たされるものです。もう一つは心の満足です。「安心」「信頼性がある」「このブランドが好き」などの感情的な判断基準で満たされるものになります。
NPSの特徴は、満足か不満ではなく、おすすめできるかを聞く点です。「自分は満足だけれども、他の人にはすすめられない」というものは、実は心の満足度は高くありません。NPSが高いほど、今後の利用回数が多くなるという実証データがあり、推奨者からファンになるポイントを見つけたり、批判者から不満になるポイントを分析できたりもするので、NPSというのは非常に使いやすいと思っています。そして、これを人事領域に応用したのがeNPSです。
今の会社にいる理由について頭で満足してもらうだけではなく、この会社にいることで自分はとてもやりがいを感じているとか、幸せだと感じられるような状態をつくりたいというのがeNPSの基礎になると考えています。ですので、eNPSを使うことによって、働く人の心の満足が測れるかもしれないということや、ELTV(Employee Life Time Value、従業員生涯価値)との関係性が見いだせるかもしれないという点で、私自身はeNPSを推奨しています。
また、第2回中編でお伝えした内容に、「あるべき姿を具体化し、KPIを設定する」というものがありました。会社が良くなったことを示すKPIを設定する場合、「働く人が会社に対して心から満足している」という状態はあるべき姿の一つになると思います。これを目指そうとした際にKPIとして使えるのがeNPSです。そして、このKPIは人事としてのKPIになりますが、事業や経営に結びついている必要があります。
eNPSと会社の業績との連動性
次に、eNPSと会社の業績との連動性についてお話ししたいと思います。まずeNPSと顧客のNPSという関係性を考えていくと、eNPSが高くなれば、顧客への対応が良好になっていきます。自分の会社をいい会社だと思っているので、提供するサービスに関しても自信をもってすすめられるようになります。そうすると、お客様への対応も良くなり、CX(Customer Experience、顧客体験)およびお客様のNPSの向上につながります。そして、お客様のNPSが上がれば、購入回数や購入金額が上がっていくのでLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)が高くなっていきます。当然LTVが上がっていけば、会社の事業の売り上げが上がるので、会社の業績が良くなります。
こうした流れにより、eNPSが上がれば会社の事業拡大につながっていくのではないかという連動性の仮説を立てられます。ただ実際に実証されたデータはなかなかありませんので、私たちHRMOS WorkTech研究所も含めて、eNPSが会社の売り上げにつながっていくことを今後証明していきたいと考えています。
eNPS活用のポイント「どのように変化したかを知る」
eNPS活用のポイントとしては、大きく3つあります。
一つは「どのように変化したかを知る」です。変化を数字で把握し、数字を見るだけでなく、それがどのように変わっていったかに着目することが重要となります。
たとえば、前期のeNPSの調査が-30で、そこから-20まで上がったとします。-20という数字自体はあまり良くは見えませんが、見方を変えると10ポイント改善されたということになりますので、会社がポジティブに変化している兆しであると判断できます。
eNPS活用のポイント「分布や比較から、ターゲットを知る」
次に「分布や比較から、ターゲットを知る」です。実際にeNPSを集計した際、時系列の変化だけでなく、分布や比較からターゲットを知ることも重要です。
まずはeNPSの分布を見ていきます。そして、会社全体のeNPSを上げるためには、中立者になっている人たちを推奨者に上げる施策と、批判者になっている人たちを中立者に上げる2つの施策の実施が重要です。批判者、中立者の全員を推奨者に上げることが理想ではありますが、それはなかなか難しいので、分布を見てボリュームから改善ターゲットを絞るのがよいと思います。
eNPS活用のポイント「eNPSにつながる要因を特定し、改善点を知る」
最後は「eNPSにつながる要因を特定し、改善点を知る」です。サーベイを行うとスコアが低い部分が多く出てくるため、私たちは全ての課題を解決すべきだと考えてしまいがちです。しかし、人事・経営のリソースは有限ですので、どこに集中してリソースを投下するのか、その優先順位をつけるためには、eNPSとの相関が強い要因を見つけることが有効です。
あるスコアが低くても、それを解決することで他のeNPSが上がらないのなら、優先順位は低くなるでしょう。一方、ある課題を解決することによってeNPSが飛躍的に上がることが期待される場合、そこにリソースを投下するという考え方で改善点を知るのがよいでしょう。
サーベイにおけるeNPSとの相関
先ほどお伝えした「eNPSとの相関が強い」というのはどういうことになるのかについてお話しします。たとえば、福利厚生への満足度が高い人のeNPSは高く、福利厚生に関する満足度が低い人のeNPSは低い場合、福利厚生に関する設問とeNPSの相関が強いといえます。しかし、eNPSのスコアの高さに対して、キャリアに関する回答スコアがバラバラの場合などは相関がないといえますので、キャリアに関してさまざまな施策を行ったとしてもeNPSは変わらないことが分かります。このように、ある設問のスコアを上げればeNPSのスコアが上がっていく可能性が相関の強さとなります。
サーベイにおける設問とスコアの解釈例についてお伝えしたいと思います。たとえば5段階でサーベイを取ったところ、キャリアに関する設問は平均スコアが3.3、衛生要因に関する設問は平均スコアが3.2、組織醸成に関する平均スコアが4.1だったとしましょう。スコアからすると組織醸成は問題なさそうですが、キャリアと衛生要因には問題があると考えられます。衛生要因は福利厚生などに関する内容になりますが、スコアが一番低いので一番の問題だと思ってしまうかもしれません。
しかし、eNPSとの相関係数を見ると、キャリアに関しては0.71というスコアになり、eNPSと相関が高い状態であることが分かります。一方で衛生要因は0.21と、eNPSとの相関は低い状態となっています。つまり、eNPSとキャリアの相関係数が高いので、キャリアに関する設問に対してポジティブな回答をしている人はeNPSが高いという判断になり、キャリアの平均スコアが上がるとeNPSが向上する可能性も高いので、優先順位が高い課題になると考えられます。
一方で衛生要因に関しては、数字上一番低いので問題があるように見えますが、eNPSとの相関は高くありませんので、eNPSの改善にどれほどつながるかは未知数です。リソースに余裕があるのであれば取り組み、そうではない場合はキャリアに関して優先的に対策を進めるという順位付けができます。
ここで注意点ですが、相関があるからといって因果関係があるとは限らないので、本来は複合的に解釈するために重回帰分析などを行います。しかし、なるべくシンプルなアクションにつなげやすくするために、サーベイではシンプルな分析を行い、eNPSとの相関からデータとの連動性が高い場合は、そこを優先的に見るようにしましょう。
要因特定のためのマッピング
優先順位付けを行うにあたり、さまざまな要因が挙げられることもあります。その際は、縦軸にeNPSとの相関の高さ、横軸にその設問自体の平均スコアの高さをマッピングし、可視化するのもよいでしょう。
図を見ると、左にあるものほどスコアが低いので、「他部署との交流が少ない」というのが一番の課題点のように見えてしまいますが、実際には左上にあるものほど重点改善が必要であり、左下にあるものは改善の必要性はあるけれども重点ではないことが分かります。右上にあるものはスコアが高くeNPSの相関も高いので今後も重点的に維持していくことが求められます。右下にあるものもスコアは高いですが、eNPSの相関はそれほど高くないので維持していけたらよいという内容になります。
実際にどの項目がeNPSとの相関が高いのか、そのなかでもスコアが低いのはどれかをサーベイから把握し、重点的に対応すべき項目を考えることが大事ですので、これらを全社のデータから比較し、アクションを考えましょう。
以上のように、目的を明らかにしたうえで、各サーベイを適切に実施・分析してサイクルを回していくことで、ピープルアナリティクスを進めていきましょう。