2022年6月20日、株式会社ビズリーチはピープルアナリティクスについての勉強会を開催しました。
株式会社ビズリーチHRMOS WorkTech研究所の友部博教が登壇し、人事におけるサーベイの活用について話しました。
こちらは全3回の勉強会のうち、3回目の内容となります。
3回目の勉強会については、前編・後編にレポートを分けています。
1回目の勉強会についてはこちらをご覧ください。
2回目の勉強会についてはこちらをご覧ください。
■登壇者プロフィール
株式会社ビズリーチ HRMOS WorkTech研究所 所長 友部 博教 2004年、東京大学大学院で博士号(情報理工学)を取得後、名古屋大学、産業技術総合研究所で、コンピューターサイエンス領域の学術研究に取り組む。その後、2008年より、東京大学で助教として研究・教育に携わる。2011年4月株式会社DeNA入社。アプリゲームやマーケティングの分析部署の統括を務め、人事領域ではPeople Analytics部門の立ち上げに携わる。2018年10月株式会社メルカリ入社。人材開発部門においてPeople Analyticsに関する施策を担当。その後、2019年11月に株式会社ビズリーチに入社し、HRMOS WorkTech研究所所長を務めている。 |
■目次
1.サーベイとは何か 2.従業員のコンディションを知るにはパルスサーベイが有効 |
サーベイとは何か
今回はサーベイについてのお話です。ピープルアナリティクスというと、従業員をプロファイリングすることや、退職理由を分析するといったことを考えがちですが、まずはデータを集めたり、課題を見つけたりする際に実施するサーベイが重要となります。採用課題の把握や人事企画を進めるにあたって課題を見つける際にもサーベイが応用できますので、参考にしていただきたいと思います。
サーベイとは全体像や実態の把握のために広く行う調査のことです。広く外観を知ろうとするのがサーベイであり、そのなかから課題を見つけ、さらに深掘りしていくというのがリサーチになりますので、違いについて覚えておきましょう。
人事におけるサーベイとは
人事におけるサーベイとは、人や組織に関する全体像・実態を把握することを指しています。
多くの場合は従業員にアンケート形式で回答してもらい、集計・分析することで実態把握を行います。
サーベイは人事にとって強い武器だと思っています。なぜなら、サーベイは実施するハードルが低く、データが集めやすいからです。また、他の人事データと大きく異なり、従業員の体感に基づくデータを収集できるので、鮮度の高い主観的なデータを集められるという強みもあります。
ピープルアナリティクスという観点で考えていくと、分析を行う際に必要となる「あるべき姿」を考えたり、現状を把握したりする際にサーベイを活用できると思っています。
サーベイを実施する目的は、組織等のあるべき姿を決めて、それが実現できているかを確認することです。そのため、人材として、組織として、そもそも会社として何を重視するのかを考えて設問を設計すれば、ピープルアナリティクスに必要なあるべき姿、そしてサーベイの両方を設計できます。現状把握に関しても、アンケートに答えてもらうことで従業員がどう感じているかを定量的に把握できます。
効果測定についても、サーベイを実施して、課題を見つけて施策を実行し、またサーベイを実施するというサイクルを回せるので、施策の効果がどのようなものだったのかを定量的に把握できます。以前の記事でピープルアナリティクスを行ううえで重要だとお話しした「あるべき姿を具体化し、KPI(Key Performance Indicator)を設定する」「データから課題を読み解く」「KPIをウオッチしながらPDCAサイクルを回す」の3つのポイントがありますが、サーベイを行うことでこれらの内容をクリアできると考えています。
特に株式会社ビズリーチのサーベイで意識していること
ビズリーチが実施するサーベイに関しても、分析するだけでなく、必ずアクションを起こすことを目的に、PDCAサイクルを高速で回すことを意識しています。
実施・分析・フィードバックをして、最後のアクションを促せるようにするために、「そもそも実施の時点では誰を対象とするのか」「実施頻度はどうするのか」「アンケート結果を誰が受け取り、誰がアクションするのか」というところまで設計したうえで、サーベイを実施しています。また、サーベイで取得する項目やあるべき姿を設計し、どのように分析するのかなど、効果測定で追う指標までを含めたアクションを考えています。そのうえで、再度サーベイを実施するというサイクルを回すことを意識します。アンケートを実施してから現場にフィードバックされるまで、3カ月といった時間がかかってしまうと、組織の状態などもいろいろ変わってしまっているので、タイムリーにサイクルを回すことも重視しています。
人や組織と関連するサーベイの種類
人事におけるサーベイは「センサス」「パルス」「スポット」と大きく分けて3種類あると思っています。
まず「センサス」というのは、半年に一度、または1年に一度ぐらいの頻度で大規模に行う調査のことを指しています。組織の状況など、変化のスピードがそれほど速くないものの調査にはセンサスが適しています。
「パルス」は、短期間に高い頻度で実施するものです。そのため、従業員に負担をかけないよう小規模に行うことが多いです。こちらは変化のスピードが速いものに対して使うサーベイで、主に従業員のコンディションに関する調査に利用します。従業員のコンディションは頻繁に変わると思いますので、パルスはなるべく高い頻度で実施・対応しないと、気づいたときには転職してしまった、ということも起こり得ます。
最後が「スポット」です。こちらは不定期に行われる調査で、たとえば人事制度の変更や、あるスポットの施策実行などの際に、その実態把握のために実施するものです。
ELTV(Employee Life Time Value)とは何か
いずれのサーベイにしても、目的をどこに置くかが最も重要になると思っています。ですが、「ELTV(Employee Life Time Value)」の最大化を目的に、人事の各施策を実行するというのが大前提となるでしょう。
ELTVとは、従業員の価値のことを指し、従業員が会社にもたらしてくれるアウトプットの総計のことを表します。
この図では、縦軸はアウトプットの成果、横軸には時間軸を置いています。従業員のアウトプットの量は時間とともに変化します。入社時点は、当然まだアウトプットが出せていないので、場合によってはマイナスの状態からスタートしてしまうかもしれません。オンボーディングが完了すると、会社からの機会提供や、本人の成長などにより活躍していき、成果が最大化されていくような形で頂点までいきます。ただ、そのまま特に新しいミッションがなかったりすると、だんだん会社での仕事がマンネリ化していき、そのままの状態が続くと退職検討を始めてパフォーマンスが落ち、最終的には会社を辞めるという形になってしまいます。この面積の合計がELTVになります。
ELTVを最大化するには
ELTVを最大化するには、シンプルに従業員のパフォーマンスを上げるか、エンゲージメントを高めることで会社に対する満足度を上げて、在籍期間を長くするかの2つが主な方法です。
その際、人材開発などは一人一人のELTVを伸ばすことになりますが、組織のELTVをトータルで増やすことに関しては組織開発や採用という話につながります。ですので、個人・組織双方のELTVを増やすことで、中長期的に組織がバリューを発揮できるようにすることがELTVの最大化に向けた考え方になります。
これを実施するために考えるべきことが、組織のパフォーマンスと従業員のエンゲージメントの最大化です。従業員のエンゲージメントを高めるには、定着率を高めていき、中長期的に会社で活躍できる環境が重要となります。一方、組織パフォーマンスに関しては、従業員一人一人がアウトプットを出しやすい環境をつくることで、組織としてパフォーマンスを高められるでしょう。
ビズリーチにおけるELTVの最大化を考えたときに、これらを伸ばすことを阻害する要因を見つけることが、サーベイ実施の一番大きな目的になっています。サーベイ実施の目的を決めることは非常に重要ですので、必ず設定しましょう。
従業員のコンディションを知るにはパルスサーベイが有効
従業員のコンディションを知るには、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する「パルスサーベイ」が有効的です。ビズリーチの場合、月1回従業員のコンディションをパルスサーベイで取得し、従業員の変化を調査したり、内容によっては人事やマネージャー、HRBP(HRビジネスパートナー)が動いたりしています。
パルスサーベイを実施できるサービスにはさまざまなものがあり、「Qualtrics」「Geppo」「Wevox」「カオナビ」などが有名なサービスとして挙げられます。HRMOSにも「個人コンディションサーベイ」という形でパルスサーベイ機能を設けています。このようなサービスを入れなくても、簡易的なサーベイなら「Google フォーム」などを用いて実施することもできますが、従業員のデータや組織の情報を組み合わせた分析などをするためには、こういったサービスの導入が効果的です。
パルスサーベイを実施するにあたり意識すること
まず、パルスサーベイの設問に関してですが、何を聞きたいかは企業の状態や目的によって異なります。ビズリーチの場合はやりがいや能力活用に重きを置いています。たとえば先ほど紹介した「Geppo」では、やりがい、人間関係、睡眠の3つの情報をサーベイで取得しています。目的ややりたいことに応じて設問を決めることが大事です。
また、パルスサーベイを実施すると気になるのが従業員の回答率です。ある企業ではサーベイの回答率が45~50%になっているという話を耳にしたことがありますが、この状態ではなかなか有効な調査にはならないと思います。特に従業員のコンディションを知るという意味では、70~80%ほどの回答率は欲しいです。
しかし、従業員のコンディションを聞くサーベイに関しては、あまり強制的に答えさせると正しい回答が得られません。元々従業員の個人のコンディションを知りたいという目的で実施しているので、無理に回答を求めて本心と異なる回答を得るより、「回答しない」という選択も従業員からのメッセージだととらえたほうがいいと思います。
パルスサーベイの活用について、ビズリーチでは従業員のコンディション把握という目的で実施しています。定期的に行っている施策ですので、人事による状態変化の観察や効果検証の実施というパルスサーベイの結果の活用だけでなく、従業員自身が自分のこれまでの回答結果を見ることもできます。そうすると、自分自身のバイオリズムを振り返り、パフォーマンスを最大限発揮するためには「自らがどうすればいいのか」と考えることにもつながります。
株式会社ビズリーチでチェックしている従業員のコンディション
今ビズリーチが行っているコンディションチェックは、従業員がどういった状態であってほしいかというものを設定したうえで実施しています。具体的には、「会社と従業員が、お互いの関係性が対等であったときに、きちんとお互いの期待値を満たしているかどうか」を目指すべき状態の指標としています。会社と従業員がそれぞれお互いに期待を持ち合っていて、そこのバランスがきちんと取れているかどうかを調査しているのです。
コンディションの分析方法(個人)
実際に、従業員のコンディションを分析する際は「やりがい」「職務遂行」の度合いで4つのゾーンに分割し、どのゾーンに従業員がいるかを調査しています。
まず、やりがいは高いが職務遂行ができていない「移行ゾーン」です。入社したばかりで新しい仕事にアサインされた人はやる気に満ちていますが、まだまだ会社の期待に応えられていないので、職務遂行自体はあまり高くない状態、などのケースが該当します。
だんだんと会社や業務に慣れ、活躍もできるようになると、やりがいがあって、職務遂行もできる「良好ゾーン」に入ります。しかし、その際に新しいミッションも与えられず、成長も感じられない状態になると「倦怠ゾーン」に陥ります。自分は会社に言われたことはきちんとやっているが、物足りなさやつまらないといった気持ちがあり、やりがいを感じない状態が続くことを指します。
さらに悪い状態になると、職務遂行の度合いも下がります。バリューが出せず、やりがいも感じられないので転職をしようという状態になるのが「逼迫ゾーン」です。
従業員がどこのゾーンにいるのかを見て、分析することによって、誰をケアするべきかを可視化するということを当社では実施しています。
また、当社ではどのゾーンにいるかよりも、ゾーンをどうやって移動しているのかを注視しています。入社直後の移行ゾーンから良好ゾーンに移動できていることを確認したり、成長につながる目標がなく今の仕事に飽きてくると倦怠ゾーンになってしまうので、異動やマネージャーへの昇格という形で新しいミッションを与えたりするなど、ゾーンの推移によりサイクルが回っているかを確認することで、従業員の能力開発が進んでいるか、コンディションが悪くなっていないかを確認していきます。
一方で、入社したばかりで移行ゾーンにいるけれど、そこからなかなか活躍できず、バリューも発揮できなかったために逼迫ゾーンに入ってしまう従業員もいます。この状況は非常に危険ですので、重点的にマネージャーや人事がケアをするようにしています。
コンディションの分析方法(全体)
次に、会社全体のコンディションの分析方法についてもお話ししたいと思います。
パルスサーベイは定期的にとっているので、組織全体がどのように変化していったのかを時系列や属性軸で見られます。たとえば組織を比較する際、ある事業部は全員コンディションがよいが、別の事業部はそうではないということもあります。同じ部門内でもビジネス部門の状態はとてもよいが、エンジニア部門は状態が悪いという場合は、それぞれのセグメントに対して具体的な施策を実施し、施策が機能したかを次回のパルスサーベイで確認するというサイクルを回せます。
良くなっているのか、悪くなっているのかを把握しつつ、課題がどこにあるのかを見つけることが、会社・組織全体の分析においては重要となります。
従業員コンディションサーベイの活用ポイント
従業員コンディションサーベイの活用ポイントですが、まずは結果のフィードバックをしっかり行うことが大事です。マネージャーや労務、HRBPと連携したうえで、1on1などでのコミュニケーションの材料として活用できるように結果を伝えることで、従業員にサーベイに答える意味を感じてもらえるようにすることが大切だと考えています。その際、絶対値ではなくて変化を見ていくのが重要ということも伝える必要があります。「高いから良い、低いから悪い」ではなく、過去に実施したサーベイ結果からの変化などを示していきましょう。
また、回答の内容が180度変わる人もいますので、突然サーベイ結果が良くなったから何もしないのではなく、変化に対してケアすることも活用ポイントだと思います。サーベイ後に何もアクションを取らないと、従業員から答える意味がないと思われてしまうので、きちんとアクションや施策を実施することが必要です。
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組織のコンディションを知るにはセンサスが有効