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人事データを活用した課題解決の流れ
■目次
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ピープルアナリティクスに必要な体制と人材とは
ここからは、KPIをウオッチしながらPDCAサイクルを回すために、どのような体制や人材が必要になるかというお話をしていきます。
まず、データアナリティクスを行ううえで理想的な体制のイメージを最初にお話しします。これは私自身の意見になりますが、「人事施策の担当者」がおり、私自身が「アナリスト」として入り、かつ「データ管理者」がいる状態が一番動きやすいと思っています。次に、それぞれが担う役割についてお話しします。
データ管理者の役割
まず、データ管理者の役割は、データ収集・精査・抽出のスペシャリストということです。人事業務に関わるデータは多種多様なので、それらに関して精査・管理する必要があります。各部署がどのようなデータを持っているのかを把握しつつ、さまざまな部署からのデータ抽出依頼にも対応します。人事データに関して、インプット・アウトプットの両方に精通する人が担う役割です。
持っているべき知識・スキルとしては、データエンジニアリングの知識や人事データに関するリテラシーです。どのようなデータなら見せても問題ないのかということも含めたリテラシーに加え、人事の業務内容に関する知識がある方が望ましいです。
データを扱う仕事であるため、検索力が高い人が活躍している印象があります。データ分析に関する新しい技術やツールの情報は世の中に多く出回っていますので、そのなかから自分が分からない情報や必要な知見を検索できる力は非常に重要です。
加えて、「傾聴力」が高い人も向いていると思います。データの抽出依頼はさまざまな部署からきますが、その際、そのデータを欲しい理由などを依頼者にやわらかく聞く必要がありますので、必要な情報を引き出す能力の高さは重要でしょう。
そして、データを精査するという観点から、細かいところによく気づく力もあるとよいでしょう。
アナリストの役割
次にアナリストの役割です。アナリストはデータから課題を読み取るスペシャリストを指します。抽出したデータをもとに分析を実施し、課題を見つける役割を担います。
データの分析やそこから課題を抽出するにあたり、高度な統計学のスキルやデータを専門的に扱った経験は必要ありません。それよりも、人事経験にもとづいて課題を見つけたり、その課題とデータをひも付けられたりする人のほうが向いていると思います。なぜなら、「課題を探すために必要なデータが何か」「どのような解決策があるか」を導き出すほうが重要だからです。
求められるスキルとしては、データサイエンティストやデータアナリストと呼ばれる人の要件と似ています。データの分析を行うために必要な統計学の基礎、構造化データの理解、SQLに関する知識としてのデータベースの知見、データ解析に有効なパッケージが豊富なPythonやRなどのプログラミング言語の知見、データを可視化するツールを使いこなすための分析ツールの知見、そしてロジカルシンキングです。データ分析を行う目的は課題解決なので、そのために物事を論理的に考えるロジカルシンキングのスキルは重要です。
そのなかで人事領域におけるアナリストとしては、人事に関する知識に加えて、分析ツールの知見とロジカルシンキングの2つがあれば、現時点では十分だと考えています。その他の3つの知見があることでより幅広いことができるとは思いますが、タレントマネジメントシステムや別のシステムで代用もできますので、必須ではありません。
データ管理者のなかにもアナリストの素養を持つ人がいるので、兼務してもよいのではないかと考える方もいるかと思いますが、担当業務の工数的に厳しいものがあります。データ管理者が担うデータの収集や整理は非常に労力がいる業務です。加えて、データ抽出依頼も時間が取られる業務であり、ここで相当の工数がかかります。アナリストも、データからすぐに課題を発見・分析できるわけではなく、まったく分析できなかったので別のデータを見てみるということもあり、仮説検証に時間がかかりますので、それぞれ個別に担当者を置くことが望ましいと考えています。
専任で担当者を置きましょうという理想的なお話をさせていただきましたが、実際にそうした方を見つけて異動・採用をするというのは難しく、他の業務と兼務しながら担当するのが現実的でしょう。ですので、その場合は、人事の施策担当の人がアナリストの役割を担い、データ管理者に関しては情報システム部門の人にお願いするのも、ひとつの方法だと思います。また、タレントマネジメントシステムなどを導入すれば、システム事業者のカスタマーサクセスサポートなどを活用することでも推進できますので、人事施策の担当者がアナリストの代わりを担うのもよいでしょう。
ピープルアナリティクスチーム(分析チーム)に欲しい3要素
このように考えると、人事の部署にデータ管理スキル、人事領域への知識・興味、課題設定力の3つの要素を押さえた人がいれば、その人たちで分析チームを組み、ピープルアナリティクスを推進できるのです。
データ管理スキルに関しては精緻なデータを作ることが重要なので、データを丁寧に扱うことができ、細かい間違いに気づき、緻密に整備できる人がデータ管理者を担います。
人事領域への知識・興味については、分析やデータ活用の発想を人事起点で広げることが目的であるため、人事領域への知識・興味から課題や仮説を立てて分析することで、確実な分析および課題解決を実現できる人が担います。そのような人であれば、データが持つ意味や分析の背景などを理解し、正確な分析ができると考えています。
分析にあたって、どのデータを見るべきかといった勘所は非常に重要ですので、人事としての知見・経験を持っていることはとても重要です。人事としての知見・経験とデータは対立構造ではなく、お互い補完し合う関係にありますので、人事としての勘・体感とデータに差がある際はその勘・体感を信じていいと考えています。逆に、人事の勘・体感では分からない場合はデータを重視するとよいでしょう。こうした背景もあり、人事領域に対する知識・興味は最低限必要です。
最後の課題設定力については、目の前の人事データを見るだけではなく、その裏にある本質的な組織課題を論理的思考力で分析できるチームであれば、ピープルアナリティクスを推進できるといえるでしょう。
分析チームの評価には長期視点が必要
しかし、このような分析チームをつくるにあたり最も大事なことは、そのチームをどのように評価するかではないでしょうか。面白そうだから分析チームをつくってみたものの、分析チームの人たちが何をやっているかよく分からないという社内の声から、チームが半年から1年で解散してしまうというケースが多々あります。
人事領域は結果が出るまで時間がかかることを、人事の皆さんはご存じだと思いますが、データ分析についても同様で、結果が出るまで気長に見る必要があります。施策自体、短ければ3カ月、半年で結果が出るものもありますが、長いと2~3年かかることがありますので、そういった点を考慮しましょう。
データ整備も想像以上にエネルギーを使うものです。結果を急いだため、きちんとしたデータが手に入らなかったり、逆にせっかくデータを整えたのに急に分析をしなくてよくなってしまったりすると非常にもったいないことです。長期間での成果を見て評価をする必要があると思っていただきたいです。
加えて、人事施策の効果測定を習慣づけることも大事です。人事のなかで何となく施策を進めていると、施策をやりっぱなしにしてしまいがちです。しっかり効果測定を行い、そのなかで施策のチューニングを実施することの大事さを、組織や人事担当者が理解することが重要です。
今回は「データを活用するための体制づくり」ということで、人事データの話とデータを活用した課題解決の流れや体制についてお話ししました。
次回は、実践編としてサーベイの活用についてお話しします。