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ピープルアナリティクスに関わるデータの種類と人事データ活用におけるガイドライン
■目次
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人事データを活用した課題解決の流れ
ここからは、実際に「人事データを活用した課題解決の流れ」についてお話しさせていただきます。
人事データを活用した課題解決の流れは、大きく以下の4段階に分けられます。
(1)あるべき姿を具体化し、KPIを設定する
(2)データを収集して整える
(3)データから課題を読み解く
(4)KPIをウオッチしながらPDCAサイクルを回す
あるべき姿を具体化し、KPIを設定する
最初に、「あるべき姿を具体化し、KPIを設定する」について説明します。例えば「異動に関する新しい施策を進めましょう」という場合、とにかく「施策を実行する」ということに目が向きがちになりますが、解決すべき課題は何かといった目的や、従業員のなかでもどのような人に向けた施策なのかというターゲット、実際の施策の中身ややるべきこと、どのような状態を目指すのかというゴールなどの設定を行うことが重要です。これらの設定があるべき姿の具体化につながります。なかでも、ゴールを明確に定義できれば、KPIの設計が楽になりますし、アンケート内容への落とし込みも容易になります。
また、これらの内容をきちんと言語化してメンバー間で認識をすり合わせておくことも重要です。人事の方は、空気を読む力やお互いが持っている経験などを暗黙の了解で理解するなど、非常にハイコンテクストなやり取りをしていることもあるかと思います。しかし、細かく聞いてみると、意外と認識がずれていることもあります。「ハイパフォーマーの人をどうやって分析するか」という議論は人事部門でもよく行われますが、ハイパフォーマーの定義が人事部門のメンバーそれぞれで異なることも少なくありません。ですので、認識をきちんと合わせるという観点でも言語化することが必要です。
また、施策は一度だけ実施するのではなく、何度も繰り返すこともあるでしょう。その際、社内異動やチームメンバーが変わることがありますので、目的を見失わないようにするためにもきちんと言語化し、認識を合わせておきましょう。
あるべき姿の具体化後は、「施策がうまく作用しているかを定量的に確認する」ためのKPI(重要業績評価指標)を用意しましょう。KPIはプロセスがうまくいっているか端的に判断するための指標になりますので、5個も6個も設定するのではなく、なるべく簡潔に判断できるKPIを設定しましょう。KPIを設定できれば、あるべき姿に対する現状をKPIで定量的に読み取れますので、ギャップを踏まえてその後のPDCAを回していくことが可能になります。
KPIを設定するメリット
では、KPIを設定するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
まずは「定量指標によって客観的に事象の良しあしが判断できる」という点です。なぜうまくいかなかったのかを考える際、KPIがないと良しあしは観測する人の感覚で判断されてしまい、結果が曖昧になってしまいます。つまり、KPIがあることで透明性や公平性を担保できるのです。
次に、「経営層や従業員とのコミュニケーションが楽になる」ということです。人事は経営層とのやり取りが比較的多い部門になりますので、新たな人事施策を行うにあたり、施策を実施する意義や成果を経営層や従業員に伝えることも多いでしょう。施策の実施目的や意義などを、複雑なロジックを組んで説明するのは非常に大変です。これらの内容を、感覚的な表現ではなく、きちんと論理立てて伝える際にも、KPIの活用が便利です。
そして、「意思決定に必要な判断をスピーディーに行える」という利点もあります。施策が効果的か否かを、ロジックを組んで考えるのは相当なエネルギーが必要となるため、端的に判断できるKPIを踏まえてスピーディーにPDCAを回し、うまくいっていないのであれば何をすべきかを考える部分にエネルギーを割いたほうが、より効果的といえます。
ゴールを具体的に定めるのは簡単ではありませんが、ここを明確にせず施策を進めてしまうと当初目指していた地点と大きく異なるところに着地してしまうこともありますので、最後のゴールをきちんと定めることにエネルギーを使っていただきたいと思います。
データを収集して整える
次に、「データを収集して整える」という話です。KPIが決まったら、そのKPIを計測するためのデータを収集しましょう。そもそも正しく分析するためには当たり前のことですが、データを正しく収集する必要があります。
人事データはどうしても人の手で入れるものが多いことをお話しさせていただきました(前編参照)。そのため、表記の間違いやゆれなどが非常に多いです。例えば漢字や全角・半角の表記の違いですと、「高橋さん」という方がいらっしゃった際、「高」「髙」の2つの表記がありますが、こうした文字の違いでデータが全く別の人の内容になってしまうことがあります。ですので、そうしたことが起こっていないか、データを収集する際に確認しなければなりません。
次にユニーク(単一)なキーがあるかどうかも大事です。「Excel」等でデータ同士をひも付ける際、何かしらのキーがないとデータ分析が難しくなってしまいます。多くの場合、社員番号やメールアドレスをキーとしますが、これらのユニークなキーの有無もデータ収集時に確認をしましょう。
それから「データの欠損がないか」です。評価データを使おうとした際、一部の従業員のデータしかなかったり、一部のデータ項目しかなかったりする場合は、不足のデータを埋める必要があります。
またデータが更新されておらず、有効期限が切れてしまっていないかも確認が必要です。データはあるが、更新されていないため過去の部署名になっていたり、数年前のデータのため、今それが正しいかどうかがわからなくなっていたりする場合がありますので、データを正しく精査していく作業が必要になります。
データ収集のツールは何か
データ収集を行うにはツールを使うのがよいと思いますが、大きく分けて3つのタイプのツールがあります。
1つ目は、表計算ツールで、「Excel」や「Google スプレッドシート」などを使うことが多いと思います。次に「Tableau」や「Metabase」などといった、人事向けではなくデータ分析用に用意されているようなBIツールを使って可視化するパターンもあります。3つ目に、当社が提供するHRMOSなど人事業務に特化したタレントマネジメントシステムです。それぞれにメリット・デメリットがありますので、状況に合わせて選定していただければと思います。
それぞれのツールのメリット・デメリットについてはこちらの図をご参照ください。
(注:勉強会の内容をもとに編集部が作成)
また、どのツールを使うにしても、分析内容の質を上げるためにデータの品質を高める前処理であるデータクレンジングが重要です。そもそも収集したデータが整っていないと、正しく効率的な分析ができません。人事情報は手入力が多く、そのなかでヒューマンエラーをゼロにするということは不可能ですので、手作業もしくはツールを使って整える必要があります。
データクレンジングの内容ですが、全角・半角の違いといった表記のゆれの解消や、重複するデータを削除し、データ自体を軽くすることなどが挙げられます。また、絶対に必要なデータを定めて、内容に欠損がないかを確認することも行っておきましょう。
データから課題を読み解く
データがそろったら、「データから課題を読み解く」ために可視化を行います。その際、データから「まずはグラフをつくる」となりがちですが、グラフを見るだけで何かわかった気になってしまい、結果的に何もしていないということが起こり得ます。データを可視化する目的は、分析の軸を見つけることで課題を深掘りしたり、自身が抱いている課題に対する仮説を検証したりするためです。課題を見つけて、何らかのアクションを起こすことを意識しましょう。
次に、データの分析軸を見つけて、課題の深掘りを行います。分析軸については「時系列での比較」と「属性での比較」が主となります。時系列の場合は、組織全体の変化や個人の変化を、属性では、所属組織や職種、入社年次などから、それぞれデータを比較。「どこがよくなっているか・悪くなっているか」「どこに課題があるのか」を俯瞰的に分析し、課題を見つけていきましょう。
課題に対する仮説を検証するという観点に関しては、あらかじめ想定をつくっておきましょう。どのようなグラフになるかを想定することで、実際に可視化されたときに想定とのギャップから課題を見つけられるからです。例えば、あらかじめ自社の退職率は10%くらいと想定しておき、可視化された結果15%くらいだったという場合に、5%の差が課題を発見することにつながります。
KPIをウオッチしながらPDCAサイクルを回す
最後は、「KPIをウオッチしながらPDCAサイクルを回す」です。KPIが決まり、課題も見つかると、施策の実施とモニタリングをしていくことになりますので、KPIを見ながら施策のチューニングなどを実行していきましょう。こうしたサイクルを回す際に人事データを活用できます。
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