2022年4月20日、株式会社ビズリーチはピープルアナリティクスについての勉強会を開催しました。
株式会社ビズリーチHRMOS WorkTech研究所の友部博教が登壇し、実際にデータを活用していくにあたり必要となるものについて話しました。
こちらは全3回の勉強会のうち、2回目の内容となります。
2回目の勉強会については、より具体的な内容に触れていくことになるため、前編・中編・後編にレポートを分けています。
1回目の勉強会についてはこちらをご覧ください。
■登壇者プロフィール
株式会社ビズリーチ HRMOS WorkTech研究所 所長 兼 グループ人事統括部 タレントマネジメント室 ピープルアナリティクスグループ マネージャー 友部 博教 2004年、東京大学大学院で博士号(情報理工学)を取得後、名古屋大学、産業技術総合研究所で、コンピューターサイエンス領域の学術研究に取り組む。その後、2008年より、東京大学で助教として研究・教育に携わる。2011年4月株式会社DeNA入社。アプリゲームやマーケティングの分析部署の統括を務め、人事領域ではPeople Analytics部門の立ち上げに携わる。2018年10月株式会社メルカリ入社。人材開発部門においてPeople Analyticsに関する施策を担当。その後、2019年11月に株式会社ビズリーチに入社し、HRMOS WorkTech 研究所所長とグループ人事統括部タレントマネジメント室ピープルアナリティクスグループ マネージャーを兼任。 |
■目次
1. 人事データとは何か - ピープルアナリティクスに関わるデータの種類 2. 人事データ活用におけるガイドライン |
人事データとは何か - ピープルアナリティクスに関わるデータの種類
今回は実際にデータを活用するために「どのような体制をつくっていくべきか」ということについて、ヒントとなるようなお話をさせていただきます。
まずは「人事データとは何か」ということについて説明し、その後、ピープルアナリティクスを行うには「どのような体制や人材が必要なのか」、実際にデータを活用するにあたって、「どういう体制づくりが必要か」という内容についてお話しします。
今回は人事データそのもののお話になりますが、そもそも、人事データにはどのようなものがあると思いますか。従業員名、配属部署や入社・退社年月日、異動データなどさまざまなデータが該当しますが、これらは大きく以下の4つに分類できますので、それぞれについて説明します。
(1)人事業務に直接関わるデータ(Operational Data)
(2)従業員の体験に関わるデータ(Experience Data)
(3)センサーで取得するデータ(Sensor Data)
(4)日々の業務で蓄積されるデータ(Log Data)
人事業務に直接関わるデータ(Operational Data)
1つ目は「人事業務に直接関わるデータ」です。これは普段の人事業務、具体的には従業員の労務や採用の業務などで利用するデータが該当します。
実際、「Excel」上で従業員のデータを管理したり、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやHRMOSなどにデータを入れ、そのなかで採用・人事業務を行ったりすることもあります。誰が入力しても差がない客観的データであることが多い一方、どうしても人の手で入力するデータのため量が少ないという特徴があります。
従業員の体験に関わるデータ(Experience Data)
2つ目は従業員の満足度など、体験に基づく体感を指標化する「従業員の体験に関わるデータ」です。アンケートなどで取得することが多く、組織状況を把握するためのサーベイや従業員のコンディションを知るためのパルスサーベイなどのデータが該当します。収集の難度がそれほど高くなく、設問設計の仕方次第ではとても強い武器となるデータになります。
また、「そもそも従業員はどのように考えているのか」といった主観的なデータを集められるので、満足度や従業員の状態を知るには最適なデータだと思います。しかし、アンケートでの聞き方が悪いと、取得できるデータの精度が低くなり、分析の難度は高くなってしまいます。加えて、従業員の数がアンケートの回答数となるので、量自体は決して多くありません。
センサーで取得するデータ(Sensor Data)
3つ目は「センサーで取得するデータ」になります。従業員にセンサーを携帯してもらい、位置情報や音声情報などを、センサーを用いて取得するデータになります。
前々職の職場で従業員の方々にセンサーを身に着けてもらい、1週間オフィスでの行動データを取得してみたことがあります。取得できるデータとしては、「会社内のどこにいたのか」という位置情報や、音声データなどが挙げられます。音声に関してはプライバシーの観点もあるため、話した内容ではなく、話し方の強さや速さなどを数値化して取得します。その他にも、「誰と誰がコミュニケーションを取っているのか」「誰がずっとデスクに向かって仕事をしているのか」「ミーティングしているのか」などの情報をセンサーで取得します。こうしたデータから、ハイパフォーマーほどミーティングの時間が長いことや、いろいろなメンバーと話していると言っていた人が、実は特定のメンバーとしか話していないということが分かりました。
センサー次第では非常に精度の高いデータが取れる一方、取れるデータ量が多く、その処理には専門性が必要となることもあります。同時にコストもそれなりにかかるため、簡単に実施できるものではないかもしれません。明確な課題に対して実施するよりも、研究・実験的に実施してみるというR&D(研究開発)の要素が強いものだと思います。
日々の業務で蓄積されるデータ(Log Data)
最後に、「日々の業務で蓄積されるデータ」です。こちらは「Slack」や「Google Workspace」の各種ツール、PCログなど、日常の業務で利用するシステムのデータを指しています。
これらのデータはAPIやツールなどが充実しているので、エンジニアにお願いをすれば簡単にデータを取得でき、またデータ量も非常に多く取れます。しかし、もともとのデータが、ピープルアナリティクスを目的としたものではないので、分析の難度は高いです。加えて、日常の業務で使っているデータのため蓄積される量が多く、もはやビッグデータとなりますので、ビッグデータを取り扱うための技術も必要になります。
これらビッグデータの活用について、私が実験的に実施したものがありますので紹介します。
一つは、「Slack」上の発言の内容から、その従業員がどのようなことを話す人なのかを分析する「ピープルキーワード」です。これを見ると、その人が普段関わる業務内容やよく話す内容を把握できるので、例えば似た傾向のある従業員との連携を促進することで、新たなイノベーションが期待できると考えています。「社内で●●ができる人を探そう」というときの検索キーワードとしても使えるかもしれないですね。
また、社内で公開されているカレンダーのデータからソーシャルグラフを作成したこともあります。例えば、業務のカレンダーから得た、誰と一緒にミーティングをしたかというデータを活用することで、従業員同士のつながりを確認できます。入社したばかりの人が、しっかりと人間関係を築けているかといったオンボーディングへの活用もできるのではないかと考えています。
以上がピープルアナリティクスに関わるデータの種類となります。しかし、これらを使った分析については注意をしなければなりませんので、次はその詳細についてお話しします。
人事データ活用におけるガイドライン
ここからは「人事データ活用におけるガイドライン」について説明します。
このガイドラインは、「ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会」が策定したものです。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、「人材データを分析・可視化して人と経営の未来に生かすピープルアナリティクスと、それを牽引するHRテクノロジーを普及・推進することを目的とし、その目的に資するためピープルアナリティクスおよびHRテクノロジーに関する事業を行う」協会です。このガイドラインは、人事データの利活用者の高い倫理観の醸成を目的に、正しくデータを使うことや、その際にどのような点に気を付けないといけないのかについて示しています。
ガイドラインは「個人にひも付けされた予測(プロファイリング)」「職場改善、人材育成、健康経営などデータを活用した改善領域の特定」「人事制度・施策の効果測定」などに使うデータを想定した内容となっています。そして、「人事データの利活用において、十分にプライバシー、人間としての尊厳、その他の権利利益が尊重されること」がガイドラインの前提となっています。人事データに関連する法令などを参考にしながら、企業の自主的な取り組みを支援することを考慮してガイドラインが策定されています。
対象となるデータは、基本的に個人情報です。個人情報である限り、人事・労務部門が管理していないものを含む、広いデータが対象になります。先ほど人事データの種類について説明をしましたが、そのなかでも行動データや移動履歴、会話履歴などのセンサーデータ、PCログ、生体情報なども対象になります。
ガイドラインには具体的に、「データ利活用による効用最大化の原則」「目的明確化の原則」「利用制限の原則」など、さまざまな原則があります。例えば「アカウンタビリティの原則」には、AIを用いた分析・予測を行った際、詳細について人事が説明できることや注意すべき内容などが記載されています。
人事データにはさまざまなものがあり、それらを用いて自由にピープルアナリティクスを行うことはできますが、原理・原則として、分析を行う際は、特定の個人に不利益を与えたり、要配慮個人情報(人種・信条・社会的身分など)を勝手に推知したりしてはいけないということに、十分に注意してください。
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