2022年2月21日、株式会社ビズリーチはピープルアナリティクスについての勉強会を開催しました。
株式会社ビズリーチHRMOS WorkTech研究所の友部博教が登壇し、人事におけるデータ活用が注目されている背景や、データを活用するうえで大切にすべき考え方などを話しました。
こちらは全3回の勉強会のうち、1回目の内容となります。
■登壇者プロフィール
株式会社ビズリーチ HRMOS WorkTech研究所 所長 兼 グループ人事統括部 タレントマネジメント室 ピープルアナリティクスグループ マネージャー 友部 博教 2004年、東京大学大学院で博士号(情報理工学)を取得後、名古屋大学、産業技術総合研究所で、コンピューターサイエンス領域の学術研究に取り組む。その後、2008年より、東京大学で助教として研究・教育に携わる。2011年4月株式会社DeNA入社。アプリゲームやマーケティングの分析部署の統括を務め、人事領域ではPeople Analytics部門の立ち上げに携わる。2018年10月株式会社メルカリ入社。人材開発部門においてPeople Analyticsに関する施策を担当。その後、2019年11月に株式会社ビズリーチに入社し、HRMOS WorkTech 研究所所長とグループ人事統括部タレントマネジメント室ピープルアナリティクスグループ マネージャーを兼任。 |
■目次
1. 人事におけるデータ活用が注目される背景 2. ピープルアナリティクスを行ううえで大切な考え方 3.「分析」の全体像とピープルアナリティクスでおさえるべきポイント 4. 今回のまとめ |
人事におけるデータ活用が注目される背景
まず、人事におけるデータ活用が注目される背景について説明したいと思いますが、その前に人事におけるデータ活用に対して皆さんはどのようなことを期待しますか。
例えば、「社員がイキイキと働けているかどうかを知りたい」という期待があるのではないでしょうか。しかし、「イキイキ度」をデータで出すのは非常に難しいです。実際、パルスサーベイなどのアンケート調査を行うと、大抵の社員が「イキイキしている」と答えてしまい、本当かどうかわからないというケースもあります。
「活躍する社員の傾向を把握したい」という意見もあるのではないでしょうか。「活躍している社員のデータを参考にし、今活躍できていない社員の育成などに活用したい」という声はよく聞きます。
「タレントマネジメントで活用したい」という声もあるでしょう。パフォーマンスが高い社員、優秀な社員の定義というのは非常に難しいので、これらに対してデータ活用を期待する方もいるでしょう。
総じて「人事データ活用に対する期待」としては、「人事業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進」や「データのなかに宝物が見つかるかもしれない」といったことが挙げられるのではないでしょうか。
人事業務のDXがもたらす価値とは
さまざまな領域でDX推進が取り上げられていますが、そのなかでも人事業務は「手触り感」が多く、例えば「この社員のコンディションを確認しましょう」という際でも、HRBP(HRビジネスパートナー)やマネージャーがその社員の様子を見て判断するということもあるでしょう。こうした内容についてDXを推進し、データを活用することで、「手触り感満載の人事業務からの脱却」や「人事業務の効率化」「人事の人材不足の解消」などといった期待に応えられると考えています。
「データのなかに宝物が見つかるかもしれない」という点に関してですが、実は労務に関する情報や採用時の情報など、人事業務に関するデータは会社のなかに多く存在しています。ですので、それらのデータを「いい感じにする」ことで活用できる可能性があるかもしれません。「データマイニング」という言葉もある通り、大量の人事データのなかからマイニング(掘り起こし)して宝物を見つけ、知見にできるのではないかと人事の方々が期待することも多いです。
では、どのような期待があるのでしょうか。例えば、退職しそうな人を把握する「退職確率の予測」や、現時点で評価はそれほど高くないが伸びる可能性がある「ポテンシャルのある従業員の発掘」、成果を最大化するためにどんなマネージャーとメンバーを組み合わせるべきかといった「チームの成果を最大化するベストなマッチング手法」などが挙げられると思われます。
こうした内容に対してデータ活用、そしてピープルアナリティクスに取り組むにあたり、基本となる大事な考え方がありますので、それについて説明をしたいと思います。
ピープルアナリティクスを行ううえで大切な考え方
そもそも、ピープルアナリティクスとはどのようなものなのでしょうか。私自身は「人事データを分析することにより、組織の課題を解決へ導く手法」と定義しています。
この定義のなかには「人事データを分析すること」「組織の課題を解決へ導くこと」の2つの要素が含まれていますが、重視すべきは「組織の課題を解決へ導くこと」です。
実際、「データが集まったので分析してください」や「コンディションの悪い社員のデータを抽出してください」といった依頼をよく受けるのですが、これは人事におけるデータ活用の落とし穴だと思っています。
例えば、「データが集まったので分析してください」という依頼に関しては、どんな目的のために集めたデータなのか、またデータ分析をすることで何をしたいのかが分からないため、何もできません。
また「コンディションの悪い社員のデータを抽出してください」や「社員の○○のデータを抽出してください」といった依頼に関しても、まずデータの抽出には工数がかかりますし、そもそもそれがわかったところで何をするかが曖昧なことが多いので、それを確認するところから始めなければなりません。
そのため、人事データに限らずビジネスにおいてデータ分析をする際、「目的を明確にしてアクション(課題解決)につなげる」ことを大事にすべきだと私は伝えています。なぜなら、アクションがなければビジネスアウトプットは何もないからです。
グラフや推移など、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールで整理されたデータを見ていると非常に楽しく、仮説を立てることで仕事をした気になってしまいがちですが、これでは全く意味がありません。これらのデータからアクションにつなげられなければ、分析には意味がないのです。
人事における分析でおさえておくべき2つのポイント
人事における分析でおさえておくべきポイントは「集めたデータを目的以外に使わない」「手元にあるデータだけから物事を判断しない」の2つであり、これをもとにアクションにつなげることが重要です。
では、「集めたデータを目的以外に使わない」というのはどういうことなのでしょうか。
それは「データを当初の予定外の目的で使うとミスリードになる恐れがある」ということです。
人事の手元にはさまざまなデータがありますが、それらは何らかの目的のために集められたものであり、当初の予定外の目的で利用することは基本的に想定されていないため、妥当な分析をすることは難しいです。例えば、組織サーベイのアンケートデータをマネージャーの評価に使用してしまうということがあるそうですが、これは非常に悪い例です。なぜなら、組織課題抽出のためのアンケートのデータであり、マネージャーの評価という目的では回答されていないからです。
また、マネージャーの評価につながることが分かってしまうと、メンバーが率直な回答をしにくくなることも考えられ、課題抽出というアンケートの目的が果たせなくなってしまうため、目的以外でのデータの利用は絶対にやめましょう。
加えて、データは生き物です。そのデータを使っていた本来の業務・目的が達成されてしまうと更新が滞り、最新のデータとなっていない可能性があります。改めてになりますが、最新データに更新されているのは目的があるためですので、目的以外では使わないようにしましょう。
次に、「手元にあるデータだけから物事を判断しない」についてですが、「人」や「組織」のごく一部の側面だけでデータを判断するのは危険です。「人」や「組織」に関するデータというのは、事業に関するデータ以上にさまざまなものがあります。例えば、ある社員の話し方やそれに対する反応、表情など、非言語の情報を人事の方は集めているかと思います。こうした人事データは非常に大事ですが、一定数集まると、十分にデータが集まったと思い、急に他のデータを取らなくなることがあります。「手触り感」のもとで集めていた情報を収集しなくなることで、手元にあるデータだけで判断するようになるのは、非常に危険なことです。
私が自己紹介でお話しした内容だけでは「友部さんのデータが全て分かりました」とはならないのと同じで、人事が持っているデータもごく一部です。つまり判断に十分なデータが集まっているかを意識することが大切です。
「分析」の全体像とピープルアナリティクスでおさえるべきポイント
ここからは「分析」の全体像とピープルアナリティクスでおさえるべきポイントについてお話しします。
先ほど、ピープルアナリティクスとは「人事データを分析することにより、組織の課題を解決へ導く手法」とお伝えしましたが、そもそも「分析」とは何でしょうか。
ある辞書では「複雑な事柄を一つ一つの要素や成分に分け、その構成などを明らかにすること」と定義されていますが、私は「課題解決に導くこと」までがビジネスにおける分析だと考えています。
では、実際の分析の仕方について説明します。分析の流れは大きく5段階に整理できます。
まず「現状把握」を行い、「ゴール設定・ギャップの把握・課題の導出」をします。そして、課題を解決するため「解決策の検討・選択」をし、具体的な「施策の実行」。最後に、施策による「結果の評価」までを私は「分析」と定義しています。
この一連の流れのなかでデータというものが関わってくるのは、「結果を評価する」5段階目です。結果への評価が悪い場合は「解決策の検討・選択」に戻り、再度課題解決に向けて取り組んでいくことになりますが、その際に定量的に評価するために使うのが「KPI(Key Performance Indicator)」という指標です。
次に、「バリューの浸透」という例を用いて説明したいと思います。
ここで、「会社で新しいバリューが発表されたが、3カ月たっても浸透していない」という課題を設定してみます。この課題に対しての分析の仕方について説明いたします。
まず、「現状把握」については「新しいバリューが発表されたものの、浸透していない」と設定し、「ゴール設定・ギャップの把握・課題の導出」に関しては「従業員が一つにまとまり、バリューを体現していく必要がある」と設定します。
そのための「解決策の検討・選択」として、「バリューに関して、従業員が『自分ごと』として考える機会を増やす」とし、「毎月の朝会で社長にバリュースピーチをしてもらう」ことを「施策の実行」とします。「結果の評価」については、「浸透に関するKPIをウオッチする」にしました。
ここで難しいのは、「バリューが浸透していることのKPIをどうするか」です。普段からとっているパルスサーベイや評価はあったとしても、バリューが浸透しているかどうかを判断するために使えず、独自のKPIが必要となります。
では、KPIは何にするのかを考えた際、「45%から50%まで数字が上がった」などという「バリューが浸透している状態を端的に表す指標」が欲しいという声があがるかと思いますが、私が勧めるのは「『あるべき姿』が実現されたときの状態を具体的に定義する」ことです。
今回の例の場合、「あるべき姿」はバリューが浸透している状態ですので、この状態に対して「主観的」「客観的」の2つの視点で想像し、定義します。例えば「従業員それぞれがバリューを体現する行動をイメージできる」を主観的、「バリューを耳にする機会が増えている」を客観的と定義し、アンケートなどを通して「バリューに沿った行動をイメージできる従業員の割合」や「バリューを耳にする頻度」を調査し、これらをKPIとすることで分析ができるでしょう。
分析を行うにあたり、難度が高い3つのポイント
しかし、実際に分析を行うにあたり、難しいポイントが3つほど挙げられます。
1点目は「現状把握」をすることです。仮説ベースでは何となく分かることも、現状・実態を知ることは容易ではありません。
2点目は「あるべき姿」をつくることです。これは一番難しいポイントだと私自身は思っています。先ほど例に挙げた「バリューが浸透している状態」というのは口にするのは簡単ですが、具体的にバリューが浸透している状態を描くのは簡単ではありません。
3点目は「あるべき姿」を定量的に評価するにあたり、どのようなデータを集めるのかなどといった「結果の評価」です。
この3つの難しいポイントについては、最初はうまくいかないことも多いかと思います。特に「あるべき姿」の定義に関しては、何となく社員の誰もが共通認識を持っていたとしても、具体的な姿は人それぞれ異なることがあります。時にはディスカッションなども行いながら言語化を進めることが重要です。
ピープルアナリティクスを始めるにあたっては、何よりも分析フローに従って、今抱えている課題を整理しましょう。「現状にどのような課題があるのか」「『あるべき姿』とはどのようなものなのか」を理解し、これらの間にあるギャップを把握。そして、どうなればギャップが解消したといえるのかという「結果の評価」までを見いだしていきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容をまとめたいと思います。
まずは、人事におけるデータ活用が注目される背景についてです。人事業務のDX推進ができるかもしれないという期待や、データから何か宝物が見つかるかもしれないという期待はあるものの、考え方が大事ということをお伝えしました。
次に、ピープルアナリティクスを行ううえで大切な考え方として、「組織の課題解決のため」という考え方をピン留めしておきましょうということをお話ししました。
3つ目に分析の全体像とピープルアナリティクスでおさえるポイントとして、「あるべき姿」「現状把握」「結果の評価」が難度の高いポイントということをお伝えしました。
今回はここまでとなります。次回はピープルアナリティクス入門として、「データを活用するための体制づくり」を取り上げます。
「人事データにはどのようなものがあるのか」「データを扱うにあたって、どのようなスキルやどのような人材が必要なのか」「データが活用される人事や体制づくりに必要なポイント」などについてお話ししたいと思います。
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